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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)4863号 判決

原告

藤本久雄

被告

協和交通株式会社

主文

被告は原告に対して金二〇〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和三〇年一二月一一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分しその一を原告の負担としその一を被告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り原告において金六五、〇〇〇円の担保を供するときは仮りにこれを執行することができる。

事実

(省略)

理由

被告がタクシー業者で植平益全が被告に雇傭せられて被告の営業に従事する自動車運転者であつたこと、及び原告主張の日時場所において右植平が被告の自動車を運転して被告の営業に従事中右植平の運転する自動車に原告の操縦するオートバイが衝突して原告が原告主張の傷害を蒙つたことは弁論の全趣旨に徴すれば当事者間に争がない。

よつて右衝突事故発生の状況について判断するに、証人高島明同植平益全、同仲西利昭の各証言及び原告本人訊問の結果を綜合すれば、植平益全は被告の営業用自動車を操縦して御堂筋道路を北進し、同道路の道頓堀橋詰交叉点において右折して宗右衛門町道路に東行しようとして、同交叉点の交通標識燈が南北青、東西赤を表示している間に、交叉点中央部に進出して、同所で右折し殆ど方向の転換を終つた頃、たまたま御堂筋の東側緩行道路を南行して来た小型自動車が右植平の操縦する自動車の前面に進出して来たので、植平は右小型自動車との衝突を避けるために、その操縦する自動車を停止させたところ、折から御堂筋疾行道路を南進して来た原告のオートバイが、右植平操縦の自動車の後部附近に衝突して本件の事故が発生したこと、植平は自動車を右折させるに先立つて、原告及び訴外仲西利昭の操縦するオートバイが御堂筋を南行して来るのを認めたけれども、その植平の操縦する自動車との距離が約二〇米余あつたので、右オートバイが右自動車の右折地点に到達する以前に、自動車の右折を終つて御堂筋路面から離脱可能であることは確認していたが、御堂筋東側緩行道路を小型自動車が南行して来ていて、それが時間的に右折を終つた植平操縦の自動車と前記交叉点路面上で出会う状況にあることには気付いていなかつたこと、及び原告は植平の操縦する自動車が約二〇米余前方で右折して自分の操縦するオートバイの進路前を横切るのを認めたけれども、右オートバイが右の右折地点に到着するまでに、右自動車はオートバイの進路を通過するものと考えたので、オートバイの速度を緩めることなく可なりの急速度のまゝ前進を続けていたために、植平操縦の自動車が停止した際に、これとの衝突を避けるべくオートバイを操縦したが、遂に及ばず、自動車後部にオートバイを衝突させ、その結果前記の傷害を蒙つたものであることを認めることができる。証人仲西利昭の証言及び原告本人訊問の結果中、原告及び訴外仲西利昭が緩行道路上をオートバイで走行して来た旨、植平の操縦する自動車が本件衝突事故直前に急に後退した旨及び原告のオーバイが本件事故の発生した交叉点に到達したとき、原告がその速度を著しく緩めた旨の供述部分は措信しない。原告の負傷の程度は速度を緩めていたならばこれを受けることは有り得ないものである。

オートバイのように危険を伴う乗物を操縦する者は、その進路の前面を横切る他の車輛等を認めたときは、オートバイを停止させるか又はその速度を十分に緩める等して衝突を避ける万全の措置を採る注意義務があるのであるから、原告が植平操縦の自動車が右折して自分の操縦するオートバイの進路を横切るのを認めたにかゝわらず、十分にオートバイの速度を緩めない前進を続けたのは明らかに原告の過失であつて、本件衝突事故の責任の大部分は原告自身の負うべきものではあるけれども、植平は前認定のように北進中の自動車を東方へ右折するに際して、交叉点の交通標識燈が南北青、東西赤を表示していて南北赤東西青にまだ変化しない以前に右の方向転換をして東方に進行するのであるから、右方向転換をするに先立つて、自分の操縦する自動車と反対方向に進行して来る車輛については、それが方向転換後の自分の操縦する自動車と交叉点附近で出会う状況であるかどうかについて万全の注意を払い、そのような車輛のあることを認めた場合には右車輛が交叉点を通過するまで方向転換を開始してはならないにかゝわらず、右のような車輛に該当する前記緩行道路を南行して来た小型自動車のあることに気付かず、右折の方向転換をしたのは、自動車を交叉点で右折させる場合に自動車運転者の払うべき注意義務を怠つた過失のある操縦であると認めるのが相当である。そして植平が右注意義務を尽して、交通標識燈の信号の変化するまで方向転換を差ひかえたならば、南北青の交通を妨害する位置に自分の操縦する自動車を停車するような事態は起らず、従つて本件事故の発生もなかつたと認めるべきであるから、本件事故の原因の一半は植平の右過失ある自動車の操縦に由来するものと言わねばならない。然らば被告は自分の被傭者である植平が自分の業務執行中に、過失によつて原告に加えた傷害について原告に対して原告の蒙つた損害を賠償する義務がある。

そこで原告の蒙つた損害の数額について判断するに、証人藤井君子の証言及び原告本人訊問の結果によつて真正に成立したものと認める甲第一乃至第一二号証と、証人吉川信雄並びに同藤井君子の各証言及び原告本人訊問の結果を綜合すれば、原告が治療費等金九〇、三一〇円を支出したこと、原告が本件事故前は蒲鉾製造販売業をしていて年間五十万円の純益を得ていたが、本件事故による負傷の結果廃業の已むなきに至り、これによつて失つた得べかりし利益は金一、〇〇〇、〇〇〇円を下らないこと、を認めることができ、また、原告が右傷害によつて受けた身体の不自由、肉体的精神的苦痛に対する慰藉料は金二〇〇、〇〇〇円に相当するものと認める。

しかしながら、前認定のように、本件事故は原告自身の過失の競合によつて発生したものであつて、しかもその過失には重大なものであるから、被告の原告に支払うべき損害は著しい額を過失相殺によつて減額すべきものであつて、支払うべき額を金二〇〇、〇〇〇円と認めるが相当である。

よつて右金員及びこれに対する本件の訴状送達の翌日から完済まで年五分の割合の遅延損害金の支払を求める原告の請求を相当として認容し、その余を失当として棄却し、民事訴訟法第八九条第一九六条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 長瀬清澄)

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